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雇われる側は働きたいときにだけ労働力を提供する。
これを、労働力のジャスト・イン・タイム化というそうだが、こうした事情は組織体側から出たのか、それとも労働者側から出たのか。
ともあれ、雇う側はコストダウンができるし、雇われる側は、よりよいワークライフバランスが保てるという理由により、双方とも「お互いによいではないか」というハネムーンの時期があった。
すべての、とまではいわないが、営利団体としての会社には、従業員を大事にすることによって組織体の外にいる人を大切にし、ひいては社会貢献をせねばならない、といった思想が古くからあった。
ところが、従業員を大切にするという目的で、新卒者の採用を複数年にわたって控えたことが、ひいては既存の従業員たちを疲弊させるという結果を招いた。
一方、国際競争力を培うために、あるいはグローバル化のために、コストダウンという用語が金科玉条になった。
コストダウンができなければ、あなたのカイシャはダメなカイシャとまでいわれる。
ここに人件費抑制策として、アウトソーシングを大幅に導入すればいいといった力学が働いた。
アウトソーサーたちを稼働させればさせるほどコストダウンできる、というコツをつかんだ経営者は旨みから逃れられなくなったとする意見が、新聞やビジネス誌に載るようになった。
仕事のストレスを抱える現代の労働者たち。
近年、労働意欲が低下しているといった報道をよく見かけるが、それを裏づけるようなデータがいくつかある。
労働者の士気(モラール)がいまや危機に瀕しているとは、独立行政法人労働政策研究・研修機構が行った「人口減少社会における人事戦略と職業意識に関する調査」(二〇〇五年)の結論である。
こういうことだ。
労働者たちが「仕事をするうえでめざすもの」と「重視するもの」は、①業務の達成感、②賃金の安定、③良好な職場環境、④雇用の安定、⑤生活時間が配慮された労働時間、⑥したい仕事ができる、といった順になるという。
これらは《やりがい》というキーワードにすべて合流すると、同調査は分析している。
そして、希望が持てない、社会や会社の先行きが不透明などといった現実とのギャップに、労働者たちは四苦八苦し、彼らの士気は崩壊寸前の状況にあるとの結論に至っている。
働く意欲に関するデータは、日本経済新聞社の「働くニホン」取材班からも出ている(日本経済新聞二〇〇七年一〇月一日朝刊)。
同班が連載開始に合わせて働く男女のおよそ三四〇〇人に聞いたアンケートによれば、「あなたが働きがいを感じる要素はなんですか(複数回答式)」という問いに、「自分の成長」と答えた人が四六パーセントと、最も多かった。
二番目に多かったのは「達成感」。
以下、「職場への貢献」「社会への貢献」と続く。
「出世」は五パーセントしかいない。
注目したいのは、働きがいを感ずることの上位には、数値で示しにくい項目が並んでいる点だ。
企業が人事制度上重視している「賃金」は二二パーセントで七番目。
「会社や組織の業績」は二三パーセントと、「賃金」よりもさらに下位にある。
働く意欲は、数値化しにくい項目により成り立っている。
この事実は、数値化を前提にしている成果主義や目標管理制度のあり方を占ううえで参考になるだろう。
職場領域の格差拡大が、職場の活性低下を生んでいるといったデータも、二〇〇六年版『産業人メンタルヘルス白書』(財団法人社会経済生産性本部)にある。
自己不確実性や劣等感や弱い志といった自信の欠如と、抑うつや不安からなる不安は、ともに好転しないまま悪化を辿る一万、一九九八年を境に標準偏差が年々大きくなっている。
ここでいう標準偏差とは、複数回答のポイント数のバラつき度である。
つまり将来に不安を覚える労働者は、全国平均で見るとじわじわ増えているが、弱い不安を抱えている大のポイント数が多い)もたくさんいるというのが、標準偏差の増大であり、格差の意味である。
産業人メンタルヘルス白書はこれを不安格差と名づけ、一九九八年をその変換点になる年と位置づけている。
バブル経済が崩壊して、不況が生じた。
多くは従業員を守るためにという理由で、対応措置がとられた。
リストラであり、子会社への転籍であり、退職金の上積みを条件に定年前に退職するという早期退職金制度であり、新卒採用者ゼロであり、成果主義導入だった。
それらはいわば、不況下での緊急避難措置だったのではないか。
けれどもそれが思わぬ利潤を生んだと、多くの人が思い込んだ。
思い込みだからこそ「成長なき増益」と椰臆された。
景気が上向いているのか下向いているのかわからない一五年がのろのろと過ぎていった。
戦後最大の好景気といわれた二〇〇六年は、たしかに底冷えの時期から脱した観があった。
しかし、多くの人が好景気を実感できないまま、いたるところに格差が広がり、新たな問題になっている。
二、三年前と較べて仕事量が増えていると、中堅層から若手までがいっているにもかかわらず、「人は増やせない」という組織体が多い。
利益が確保できるようになったものの、「国際競争力を培うために、資本を温存せねばならない」という理由で、給与もなかなか増えない。
報酬として還元される部分がどこにもないので従業員たちは疲弊する。
これは、自然の理だろう。
こころの病もそうだし、逼迫した作業もそうだが、一番大きな弊害は「やる気の低ド」である、組織体を支えている正社員たちの士気が、急速に落ちている。
社員たちには上司がいて、部下がいるから、士気低下はさまざまな方面に影響を及ぼす。
ハラスメントというイジメが起こることもあれば、内部にいる者同士のつぶし合いが起こることもある。
具同作業をしているにもかかわらず、内部の者たちを互いに競わせようといった成果主義が、これに拍車をかけるかたちになった生き残りを賭けた壮絶な内部のつぶし合いが起きている職場さえある。
成果、絶対評価がそのうち相対評価になってしまうため、プラスの評価を受けたからといって貢献度が高いとは一概にいえない。
ともあれ結果として、成果主義というシステムを回せば回すほど人件費削減になる。
だから内部は凄惨な状態にあるのに、業績は上がってしまうことがある。
しかし、士気が落ちた職場が増えてしまえば、組織体はそのうち失速するはずである。
カンフル剤を一時的に打ち込まれた患者のように、改善したかのように見えた容態は、文字どおり一過性である。
いざなぎ景気越えとまでいわれながら、その意味が実感できないなかで、いつのまにか出てきた論がある。
「労働者サイドのニーズによる、正社員から非正社員への移行論」である。
人間には、各々の生き方やライフスタイルがあるから、それに応じた労働スタイルがあってよいという考え方だ。
ワークライフバランスといった用語が出てきたのも、この時期である。
不況対策で講じられた緊急避難措置の後遺症がさほど解析されることなく、あたかもこの論が先にあったかのような表現を、一部の経営者たちがするようになった。
今後、仮に正社員を増やすような措置が講じられたとしても、ひとたび変わってしまった意識を取り戻すのは容易なことではない。
平成一九年版図民生活白書によれば、「現在の仕事に疲労感やストレスを感じる原因(複数回答式)」として抜きん出ているのは、「会社の将来性に不安を感ずる」「仕事量が多い」「仕事の責任が重い」の三点である。
仕事の責任や負担が増したと感じているのは、正社員の三分の二、二〇代から四〇代では、実に割を超える正社員が該当している。

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